SC 「劫」の定義…大智度論(四千里)

Q 「劫」の定義:劫の無限長大時間の譬喩として「盤石劫」「芥子劫」がよく 用いられているが、多くは「四十里」  四方(立法)である。しかし、その譬喩の原典『大智度論』では「四千里」 となっている。「千」がいつの間にか 「十」と誤読されたようだ。
   以下、大智度論の正しい記述を確認 されたい。
   因みに『大智度論』とは=龍樹(2C)による、『摩訶般若波羅蜜経』に対する百巻の注釈書:仏教百科事典的に扱われることが多い。漢訳は鳩摩羅什による(402-405年)   …大正蔵(No.1509)。

①【SAT】1509_,25,0100c11(02):(以下)
 【經】從阿僧祇劫已來發大誓願。
 【論】阿僧祇義。菩薩義品中已説。劫義佛譬喩説。
    四千里石山有長壽人。百歳過持細軟衣一來拂拭。令是大石山盡。劫故未盡。
    四千里大城。滿中芥子。不概令平。長壽人百歳過一來取一芥子去。芥子盡。劫故不盡。
    菩薩如是無數劫。發大正願度脱衆生願名大心要誓。必度一切衆生斷諸結使。成阿耨多羅三藐三菩提。是名爲願。
 《『国訳一切経 釋経論部 一』144頁》
 【經】阿僧祇劫より已來大誓願を發す。
 【論】阿僧祇の義は菩薩義の品の中に已に説けり。劫の義は、佛、譬喩して説きたまふ、
    「四千里の石山に長壽の人あり。百歳を過ぐれば細軟の衣を持って、一たび來って拂拭し、是の大石山をして盡さしむる
     とも、劫は故(さ)らに未だ盡きざるなり。
     四千里の大城に、中に芥子を満し概して平かならしめず。長壽の人あり。百歳を過ぐれば一たび來って一の芥子を取り
     て去らんに芥子は盡くとも、。劫は故(さ)らに盡きず。
    菩薩は是の如き無數劫に大誓願を発して.衆生を度脱す。願を大心要誓と名く。必ず一切衆生を度し、諸の結使を断
     じ、阿耨多羅三藐三菩提を成ぜん、是を名けて「願」と為す。

<念のため台湾の大蔵経でも検索した>
②【CBETA】(台湾 漢文大蔵経)
【經】
從阿僧祇劫已來,發大誓願。
【論】
「阿僧祇」義,〈菩薩義品〉中已說。
「劫」義,佛譬喻說:「四千里石山,有長壽人百歲過,持細軟衣一來拂拭,令是大石山盡,劫故未盡。四千里大城,滿中芥子,不概令平;有長壽人百歲過,一來取一芥子去,芥子盡,劫故不盡。」
菩薩如是無數劫,發大正願度脫眾生。「願」名大心要誓,必度一切眾生,斷諸結使,成阿耨多羅三藐三菩提,是名為「願」。

辞書類の記述:
③【浄土真宗聖典】巻末註
こう〔劫〕梵語カルパ(kalpa)の音写。インドの時間の単位。極めて長い時間のこと。その長さを磐石劫ばんじゃくこう ・芥子劫けしこうの譬喩で表す。
 『大智度論』には四十里四方の石を、百年に一度ずつ薄い衣で払って、その石 が摩滅しても劫は尽きない(磐石劫)、また四十里四方の城に芥子を満たし、百年ごとに一粒ずつ取り出し、すべての 芥子がなくなっても劫は尽きない(芥子劫)とされる。この譬喩の石・城の大き さや年数の示し方には諸説がある。  

④【中村元『仏教語大辞典』】
【劫】こう Kalpaの音写・・・幾億万年。偉大なる時間。その長さを『増阿含』(34巻)には、盤石劫・芥子劫で表している。四方上下一由旬の鉄城…、四方上下一由旬の盤石…
   『大毘婆沙論』135巻、『大智度論』38巻などにも同様のたとえがある。四十里の石山…四十里の大城に… 
 
⑤【真宗新辞典】
  劫 ➊40里・80里・120里立法の城内…石…3年に一度…
⑥【佛教學辞典】(法蔵館)
  劫 ㈡智度論巻五…四十里四方の城
     ㈢智度論巻五…四十里四方の石
⑦【仏教大辞彙】
劫 (摘要)『大明三蔵法数』(支那撰述 日本校訂. 巻第1−14)に草木、沙細、芥子、砕塵、払石の五喩があるが、芥子・払石が最多…各々、方四十里、三年…

★上記の辞書類は殆ど「四十里」説。最初だれかが間違い、後はその誤記を孫引きしたのではないか。事々に原典に当たることをしなかったのではないか。 
  唯一つ、Wikipediaは「4000里」説を取っている。美事である。

【Wikipedia】
  劫(こう)は仏教などインド哲学の用語で、極めて長い宇宙論的な時間の単位。サンスクリット語のカルパ (kalpa कल्प) の音写文字「劫波(劫簸)」を省略 .... 同じく『大智度論』には「1辺4000里の城にケシ粒がぎっしり詰まっており、その中から100年に1粒ずつケシ粒を取り出していって、城の中のケシ粒が完全になくなっても劫に満たない」という。


        
(出典 聞法ノート)
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