RI 法然批判の貞慶に浄土信仰?

奈良の唐招提寺蔵「解脱上人像」の賛にこう書いてある。

  貞慶己講
行有難易尤易者口称念仏也 
道有遅速太速者弥陀来迎也
三国先蹤挙世所知□況臨終
一念過百年行若遇善知識
造悪凡夫十念成就横截愛染
永離苦域可悦可勇不可不恃
(行に難易あり。尤易(ゆうい)(もっとも易なる)者(は)口
称念仏なり。道に遅速あり。太速なるは弥陀の来迎なり。
三国の先(せん)蹤(しよう)(先人のした事の跡・先例)世を
挙げて知□せる所なり。況んや臨終の一念は百年の行に
過ぎたり。若し善知識に遇はば、造悪の凡夫、十念成就し
て横に愛染を截り、永く苦域を離る。悦ぶべし、勇むべし、
恃(たの)まざるべからず)
 ・・・東寺観智院蔵『〔貞慶鈔物〕』一帖・影印
   中の「阿弥陀念仏勧進」の2-3頁の文。

★貞慶は1205年(元久2年)に『興福寺奏状』を起草し、法然
の専修念仏を批判し、その停止を求めた人物であるのに、
上述のような浄土信仰
があったことは驚きである。阿弥陀仏による念仏の救いは
承知していながら、法然の専修念仏を批判した根拠は何か。
研究すべき課題である。
貞慶は法然教団の乱れ(破戒・無戒的言動等)
を非難したのであるという説もあるが「奏状」との関連を考
究すべきである。
        
(出典 ◎文化庁月報 平成24年4月号(No.523) 奈良
国立博物館 御遠忌00年記念特別展 解脱上人貞慶 
ー鎌倉仏教の本流ー
 ◎東寺観智院蔵『〔貞慶鈔物〕』一帖・影印
 牧野和夫・田口和夫
  実践女子大学文学部 紀要 第48集
【キーワード】易行 口称念仏 弥陀来迎
     十念往生 罪悪凡夫 

<参考>
『貞慶鈔物』は東寺所蔵のものとして、一昨年ぐらいの展覧
会で出品されていたもので、図録に乗っていました。
そこには「阿弥陀仏勧進」(四紙ほど)がありました。
時間をかければ読めると思いますが、ざっと見たところ「末那」
や「頼耶」など唯識の第七識・第八識の用語が見られる、法
相の僧侶としての立場から著されたものと思いました。
先生のお尋ねで、法然を批判した貞慶が阿弥陀仏信仰という
のがあるのに不思議さを感じられたことと理解しましたが、
貞慶は浄土宗の独立と法然の弟子たちの狼藉を批判したので、
阿弥陀仏そのものを批判したわけではありません。
あわせて、親鸞聖人の師とされている天台座主の慈円も儀式
で用いられるさまざまな仏・菩薩を讃える文章を依頼されて沢
山書いていますので、貞慶が「阿弥陀仏勧進」を書いたこと自
体には、その時代における法然批判との齟齬はありません。
28年12月17日
             藤井 淳(駒澤大学 講師)