RE この手

 =この手=
 「この手は小さい時、母の乳房をしっかり握った手
  この手は、母の背中をたたいた手
  この手は、母の白髪を抜いた手
  この手は、ある日二人の女を殺した手
この手は、獄舎にて歎異抄を点訳した手
  そしてこの手は、朝夕合掌する手」
彼の手型を捺した色紙に添えて、そう書いてある。足利孝之教誡師に渡された某死刑囚Aの形見の言葉である。

 私生児Aを生んだ若い母親は、Aを母に託して去る。Aは祖母を「母」呼んで育つ。中学生の時、高校への願書を書くとき、私生児だったとわが出生の秘密を知る。それから彼の人生は狂いだした。暴力団、覚醒剤と悪の道に入り、女と同棲する。金に困り、女をある医院のお手伝いさんに入らせて医院内の様子を探らせ、医師不在と分かった夜、強盗に入り、医師夫人を殺し、金品を盗み、女を連れて山に逃げる。しかし、この女が犯罪を知っていると、女を殺し、逃亡。やがて捕まり、裁判の結果死刑の判決。しかし、獄中での教誡によって初めて歎異抄に遇い、「善人なおもって往生をとぐ、いはんや悪人をや」との如来大悲が深く心にしみとおるー如来に信じられている身であったと感泣するーこの如来におまかせする他なしーこうして念仏のでる身となった。そして二十七才の生涯に終止符がうたれた。
 まさに「一生造悪値弘誓 至安養界証妙果」である。(『生死の峠に立ちて』取意)

参考「誰にも 何ものにも 信頼されていない私が 如来に絶対的に 信頼されて
いるというわが身を信ずることを極難信という」(曾我量深師)
       
(出典 足利孝之 『生死の峠に立ちて』)
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