MM 死んだらゴミ?

 ロッキード事件を裁いた元検事総長の伊藤栄樹氏は、ガンになって曰く「死んだらゴミになる。宗教は信じていない」とのこと。
それを聞いた鈴木昌子さん、こう尋ねた「あなたは死んだあと、ゴミを家族に拝ませるのですか」と。
昌子さんも同じくガンで入院中だったが、熱心に聞思し、「…念仏のわかる人間にお育ていただいてありがとうございます。よろこんでこの生、終わらせていただきます」と詠っている。

(出典 藤枝宏壽 鈴木章子『癌告知の後で』より取意)
【キーワード】 人生の帰趨 ゴミ 念仏 

参考
伊藤栄樹は検事総長在任中(62歳)の時に、盲腸ガンになる。
医者との会話から、早くて数ヵ月、長くて2~3年だと判断する。
そして、仕事を片づけて適当な時に辞める、残された妻が困らないようにする、ということを考える。
このあたり、ものすごく冷静であるし、潔い。

石鹸を見ては「わが人生最後の石鹸になるのではないか」と思い、「来年のプロ野球はもう見ることができないはずだ」と考える。
そうこうしているうちに、
「ぼつぼつ一番大事なことに決着を付けておかなければならないと思い至った。つまり、私自身、まもなく間違いなくやってくる自分の死をどのように納得するかということである」
そこで、妻を相手にこういうことを話す。
伊藤栄樹の家は浄土真宗の門徒である。
「しかし、仏教という宗教を信じているわけではない。僕は、神とか仏とか自分を超えたところに存在するものにすがって心のなぐさめを得ようという気持ちには、とうていなれそうにない」
そして、
「僕は、人は、死んだ瞬間、ただの物質、つまりホコリと同じようなものになってしまうのだと思うよ。死の向こうに死者の世界とか霊界といったようなものはないと思う。死んでしまったら、当人は、まったくのゴミみたいなものと化して、意識のようなものは残らないだろうよ」
と、霊魂や死後の世界を否定する。

それに対して妻は、
「でも、あなたのような冷たい考え方は、いやよ。死んでからも、残された私たちを見守っていてくれなくては、いやです」
と言うのだが、伊藤栄樹はあくまでも霊魂を否定する。
 

『癌告知のあとで』鈴木昌子
「伊藤栄樹さま
「人間死ねばゴミになる」
 残された子に
 残された妻に
 ゴミを拝めというのですか
 あなたにとりましては
 亡くなられた
 お父上
 お母上も
 ゴミだったのですか
 人間死ねば佛になる
 この一点
 人間成就の最後のピースでしたのに
 自分がただの粗大ゴミとして
 逝ったのですね
 未完成のまゝに」