IN 月見とて

 月見とて 父詩を吟じ母歌唱
   聴き惚れ見あげし 幼な心に

(出典 愚石)
【キーワード】 月見 詩吟 歌唱 幼児 思い出

【注】 それは小生5歳くらいだったろうか。多分中秋の名月の頃だったろう、二階への階段上ったところから月がよく見えていた。
  父がいい声で
「鞭声粛々夜河を渡る」(賴山陽)と詩吟に喉をふるわす。
   終わると母が
   「待てど暮らせど来ぬ人を 宵待ち草の やるせなさ」(竹久夢二作 詞の流行歌)
と歌う。

  今し方、同じ場所で、中秋の名月を見ていてふとこの光景が懐かしく思い出された。
  戦争(日中戦争)たけなわの頃、父が中国から帰還した時のことではなかったかと思う。二児を抱えて父の帰りを待っていた母。国漢の教員で漢詩などにも通じていた父。月の光の下で、二人は一時の幸福感に浸っていたのであろう。両親のこのようなロマンチックな光景はこの一場面しか記憶にない。懐かしさに胸こみあげて、作ったこともない歌を一首ひねってみた次第である。(平成30年9月24日 84歳)