IN 初冬のうた

・おまえよくここに居ることわかったね
  昨日私が入所させたの
        横浜市 林 直美(291127)
・死ぬことの覚悟はすでに出来てるが
  初めてなので不安は残る
        三郷市 木村義煕(291204)
・伝わらなくなったなぞなぞその一つ
  上は大水、下は大火事
        東京都 伊東澄子(291204)
・声ひそめ「戦死といっても餓死なのさ」
  嫗呟く瞼上げつつ
        仙台市 武藤敏子(291204)
・古稀を機に法衣をまとう四つ切りの
  遺影写真を用意し五年経(ふ)
        三原市 岡田独甫(291204)
・入院に仏典買ひて退院に
  宝くじ買ふ吾に呆れる
        所沢市 小坂 進(291010)
・渓流の音も揺れゐる蔓橋
  母の手にぎり阿波の国ゆく
        越前市 内藤丈子(291010)
・優しくて靱(つよ)き人なり欠礼の
  葉書来るまでその死を知らず
        長野市 祢津信子(291218)
・残るのと残されるのとちがいます
  寝息たててる夫につぶやく
        神戸市 西塚洋子(291218)
・しぐれ来て又しぐれ来て雪になる
  石蕗(つわ)の一叢(ひとむら)黄の明るうて   
        福井市 甘蔗 得子(291225)
・本人に書けぬ届は二つあり
  出生届と死亡届と 
        東京都 東 賢三郎(291225)
・我儘と我慢はとても似ているね
  五センチ以上開かない窓
        横浜市 林 直美(291225)
・没年は生年月日となりいしや
  墓標に刻める父の戒名
        竹田市 佐藤政敏(291225)
・もう一度夫を家へとまだおもふ
  わたしがつぶれてしまはぬうちに
        舟橋市 大内はる代(291225)
・ごくたまに心の中に忍び寄る
  鬼には負けず十年介護
        東京都 今泉洋子 (291225)
・不幸者の冬の帰省をだご汁と
  きんぴらごぼうで母待ちくれし
        堺市 丸野 幸子 (291225)

・火のそばで遊びしこともまぼろしの
  五徳、七輪そして十能
        八尾市 水野一也(2406??)

(出典 朝日歌壇29年11~12月)
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     時雨

参考
・吹雪く夜身体の温め第一と
  法友の持て来し柚子湯身にしむ
               愚石(291218)