IN うんともすんともいわず

 ゆうべの間に
 ひげがのびている
 しらん間に
 うんともすんともいわず
 ひげがのびている

 いのちの方は
 うんともすんともいわず
 ちぢまっているというのに
 ひげが のびている

 いや
 うんともすんともいわず
 刻々とちぢんでいくいのちを
 わたしにしらせるために
 
 そっと
 ひげが
 信号を送ってくれているのかもしれない
 うんともすんともいわず
 ちぢまっているいのちを
 わたしに
 しらせるために

 ひげがのびているということは
 わたしが生きているということ
  
 生きているということは
 死ぬいのちをかかえているということ

 ひげをなでる 
 うれしいような
 さびしいような
 愛しくてならぬ
 この なまあたたかい
 生きているということの
 肌ざわり。

(出典 東井義雄)
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