IN 榎本栄一の詩(1)『群生海』より

   木 の 上
 うぬぼれは
 木の上から ポタンと落ちた
 落ちたうぬぼれは
 いつのまにか
 また 木の上に登っている

   獣 心
 私に
 けもの心の湧く時あり
 その時も
 私は 人間の顔をして
 暮らしている

   晩 年
 肉体は おとろえるが
 こころの眼がひらく
 人間の晩年というものはおもしろい
 今日まで生きて
 いのちのふかさが 見えてきた

   ぞうきん
 ぞうきんは
 他のよごれを
 いっしょけんめい拭いて
 自分は よごれにまみれている

   朝
 自分がどれだけ
 世に役立っているかより
 自分が無限に
 世に支えられていることが
 朝の微風のなかでわかってくる

   古 衣
 死ぬとは
 この古いころもを
 ぬぐことではないのかな

   そっと   
 どうにもならんことは 
 そっと
 そのままにしておく

         榎本栄一 71歳

(出典 榎本栄一『群生海』 
          昭和49年 難波別院刊)
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         榎本栄一詩集の第一刊