HY 非人間的殺戮(劫濁)

 飛行機による大西洋単独横断のリンドバーグは、
米国が第2次大戦に参戦するのに反対して
世論の袋だたきにあう。ナチスと近いなど様々に
あげつらわれたが、愛する飛行機が空からの大
殺戮をもたらす悪夢を予測したのが大きな理由
だった
▼的中は歴史が証明している。わけても無差別
爆撃でおびただしい市民が殺された。ドイツ軍の
ゲルニカ空爆に始まり、日本軍による童慶、連合
国軍によるドレスデンー。惨禍の延長線上に東京
大空襲があった。下町を焼き尽くした戦災から今日
で66年がたつ
▼こうした空襲を、軍事評論家の前田哲男さんは
「眼差しを欠いた戦争」と言う。殺す側も殺される側
も互いを見ることがないからだ。機上の兵士には
「苦痛にゆがむ顔も、助けを求める声も、肉の焦げ
るにおいも、、一切伝わらない」(『戦略爆撃の思
想』)のである
▼加害の意識は薄らぎ、殺我のむごさだけが増幅
する。その究極が広島、長崎だった。そして今、実
際に飛行機にも乗らず、遠い他国に爆弾を落とせ
る時代になった
▼兵士は家族と食事を済ませて出勤し、基地にあ
る「操縦席」で無人機を遠隔操縦する。アフガンの
戦場で敵を攻撃し、ミサイルや爆弾を撃ち込む。勤
務が終われば子どものサッカー試合を見に出かけ
る。米国での現実の話である
▼基地から戦場までは約1万2千㌔。無差別爆撃
の非人間性とはまた違う、無機的な、背筋が冷た
くなる光景だ。殺したり殺されたりする用に人をあて
てきた歴史に、人はいつか決別でき
ようか。犠牲者を悼みつつ平和を願う。 (天声人語
 平成二三年三月十日)

(出典 天声人語 平成二三年三月十日)
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