HY 母の涙(科学と心)

「母親の涙には、化学では分析できない深い愛情がある」

 ~ファラデー 母親の涙~

イギリスの大科学者、マイケル・ファラデーは、母親思いであった。

貧しい家庭に生まれた彼は、母の苦労を見て育った。

満足に学校へ行くお金もない。しかし、製本屋で職人として働きなが
ら、科学への関心が次第に高まっていった。ファラデーは、自分が製
本した電気、化学に関する本を片っ端から読んで勉学したという。そ
の努力と熱意が認められ、
二十一歳の時に、王立研究所の助手に採用された。

 間もなく、上司が企画したヨーロッパ大陸旅行に同行する。学術研究
が目的であったが、一年半もの長期にわたる旅だった。しかも、当時は
ナポレオンが失脚する直前であり、イギリスとフランスは戦争状態にあっ
た。こんな時期に敵対する国へ行って、無事に帰ってこられる保証はな
い。いちばん心配したのは母親であった。

 ファラデーは、母親に安心してもらおうと、
旅先から頻繁に手紙を書いている。その一部を抜粋して掲載しよう。

「丁度近いうちにイギリスへ帰る人がありますので、その人に頼もうと
思って少し手紙を書きます。
 フランスへまいりましてから、ずっと手紙をお送りする機会がありませ
んでした。(中略)
家でいかが暮していらっしゃるか心配しています。御健康のことも気に
かかります」
(一八一三年十二月九日)

「今のところ健康状態も大変よろしく、また今までのところ旅行は何ら不
自由な点もありません。体重にしてもイギリスを出た時よりも、反って多く
なり、確かに太っても来ました。
 もっとずっと前から手紙をお送りすべきでありましたが、手紙が届く見込
みが全くなかったのでした。今はもうこの点では心配はありません。唯今
も申上げたいことはまだまだ幾百幾千とあるのですけれども、そんなに沢
山の中から何れを選んでよいかに迷うばかりです」
(一八一四年四月十四日)

「月日というものは不思議なものですね。同じ期間でも、またたく間に過ぎ
てしまうかと思うと、ゆっくりと経過したりするものです。
この前手紙をお送りしてから、やっとまだ四五日しか立(経)っていないと思
ったり、また別の時には、それが何ヵ月も、あるいは何ヵ年も、
前のことであったように思われたりします。
(中略)
実際次から次にお話し申上げたいことが起ってまいります。その上、手紙を
書いて手から放したその瞬間に、あれもこれも書きおとしたということに気
がつくことも屡々(しばしば)であります」
(一八一四年十一月十日)

母を思う、優しい心遣いにあふれる手紙の数々は、『化学史談』VIに掲載さ
れている。

ファラデーは、世界的に著名な科学者になった。
数多くの発見は、今日の我々の生活にも応用されている。
 例えば、冷蔵庫、洗濯機、掃除機などの便利な電化製品に不可欠なモー
ターの原理を発見したのが、彼である。

ファラデーのもとには、その名声を慕って、多くの学生が集まった。

ある日、彼は研究室に学生を集め、一本の試験管をかざして、「この中に少
量の液体が入っている。何だと思う?」と聞いた。
 ざわついて答えがまとまらない。
ファラデーは、
「先程、ある学生のお母さんが、私のところへ来られた。子供のことが心配
のあまり、涙を流して語っていかれた。
 母親の愛情の深さには、本当に心を打たれるものがある。その時の涙が、
この試験管の中に入っている」
と説明した。
 意外な展開に、学生たちは静まり返ってしまった。
 ファラデーは続けて、こう言ったという。
「確かに涙を化学的に分析すれば、少量の塩分と水分にすぎない。
 しかし、母親の涙の中には、化学も分析しえない、深い愛情がこもってい
ることを知らねばならぬ」
 世の中には、言葉や数字などでは到底表せないものがある。
 いちばん身近な「親の心」を、どれだけ知ろうと努力しているだろうか。

 高校化学などで出てくるファラデー定数は、
96485.3415 (C/mol) です。
 小数点以上を見ると、何となく「苦労した母の子」と読めますが、
 「親の心は、数字などでは到底表せない」
ということでしたね。
 重々しい電気分解のファラデーにこんな名言があったなんて……
 感動を覚えたものでした。

(出典 ラメール公式ホームページ
  http://hamakkolamer.web.fc2.com/)
【キーワード】母の涙 分析不能 化学 科学
     ファラデー