HY でんでん虫の悲しみ

でんでんむしのかなしみ 
             新美南吉

一ぴきの でんでんむしが ありました。
 あるひ、その でんでんむしは、たいへんなことに
きがつきました。
「わたしはいままで、うっかりしていたけれど、わたし
のせなかのからのなかには、かなしみがいっぱいつ
まっているではないか。」
 このかなしみは、どうしたらよいでしょう。
 でんでんむしは、おともだちのでんでんむしのところ
に やっていきました。
「わたしはもう、いきていられません。」
と、そのでんでんむしは、おともだちにいいました。
「なんですか。」
と、おともだちのでんでんむしは ききました。
「わたしは、なんという、ふしあわせなものでしょう。
わたしのせなかのからのなかには、かなしみが、
いっぱいつまっているのです。」
と、はじめのでんでんむしが、はなしました。
 すると、おともだちのでんでんむしはいいました。
「あなたばかりではありません。わたしのせなかに
も、かなしみはいっぱいです。」
 それじゃしかたないとおもって、はじめのでんでん
むしは、べつのおともだちのところへいきました。
 すると、そのおともだちもいいました。
「あなたばかりじゃありません。わたしのせなかにも、
かなしみはいっぱいです。」
 そこで、はじめのでんでんむしは、またべつの、お
ともだちのところへいきました。
 こうして、おともだちを じゅんじゅんにたずねてい
きましたが、どのともだちも、おなじことをいうのであ
りました。
 とうとう、はじめのでんでんむしは、きが つきました。
「かなしみは、だれでももっているのだ。わたしばかり
ではないのだ。わたしは、わたしの かなしみを、こら
えていかなきゃならない。」
 そして、このでんでんむしは、もう、なげくのをやめた
のであります。

        
(出典 新美南吉 書名等)
【キーワード】 悲しみ 人間 誰にも  耐える

<参照> IN 相田みつをの詩  
      「だれにだってあるんだよ」      
<参考>
美智子皇后が1998年、第26回IBBY(国際児童図書
評議会)世界大会でのビデオ講演で「何度となく、思い
がけない時に私の記憶によみがえってきた」作品として
触れられた新美南吉の「でんでんむしのかなしみ」