HT 説教は田楽のごとし
安心の豆腐に教学の串を刺し、
譬喩因縁の味噌を塗り、
弁舌の火で焼いて、
ただし
食べるときには
教学の串を抜け。
(直林不退 談)
(出典 『大乗』770号・26年7月)
【キーワード】 節談説教 譬喩因縁 教学
安心(信心)
参考
☆ 直林不退=なおばやし・ふたい氏=1958年、群馬県桐生市生まれ。龍谷大大学院文学研究科博士課程単位取得、花園大から博士(文学)の学位受領。龍谷大兼任講師・佛教大兼任講師・相愛大准教授を経て、4月から現職。浄土真宗本願寺派淨宗寺住職、花園大兼任講師、節談説教研究会副会長。
★江戸時代後期浄土真宗で成立した、大衆の感性に訴える情念の布教技法としての節談。
その文化史的価値に最初に着目し学術研究の先鞭をつけたのが、関山和夫氏である。節談の特色について関山氏は、「七五調」「美声」「節回し」さらに独自の「型の伝承」の存在を究明された。関山説によれば、説教の型は「呼ばわり説教」と「譬喩因縁説教」に大別でき、主に後者に関して安居院流伝持の「説教五段法」の固定化が見られる(『説教の歴史的研究』)、という。
「五段法」とは、「讃題」(説教のテーマとなる経論祖釈の一節)・「法説」(讃題の解説)・「譬喩」(わかりやすいたとえ話)・「因縁」(讃題にそった物語)・「結勧」(説教の要諦を弁ずる)という五科に区分された説教の構成である。「はじめ(讃題・法説)しんみり、中(譬喩・因縁)おかしく、終(結勧)尊く」・「讃題について(法説)、はなれて(譬喩・因縁)、またついて(合法)、花の盛りにおく(結勧)が一番」という二つの著名な格言には、「五段法」説教の眼目が遺憾なく示されているといえよう。
つまり、「五段法」の中では、「讃題」から「結勧」まで一貫した教義の基軸が貫徹していた。だが、そのみ教えをわかりやすく伝えるための「譬喩」や、感動的な物語としての「因縁」の占める比重はことのほか大きい。殊に喜怒哀楽の感性に働きかける「因縁」こそ、節談の山場とされてきた。