HT 同感の心を願いつつ
渡辺悌爾
先日、私より一つ年上の従兄の葬儀にお参りさせていただきました。緊急入院直後の危機は乗り越えられたものの、発症から二カ月後の危機はやはり乗り越えることができませんでした。平均寿命より十年も早い、思いがけないお別れはご家族にとって耐えがたい悲しみでありましょう。そのご家族の悲しみや苦しみを思うにつけ、同年輩の親族として、かけるべきお悔やみの言葉がなかなか見つかりませんでした。
ふと松尾芭蕉をめぐる故事を思い出しました。芭蕉の友人が幼子を亡くして悲嘆にくれていました。芭蕉は何とか友人にお悔やみの気持ちを伝えようと、俳句を詠もうとしましたが、なかなか句が浮かびません。そこで、芭蕉は「まっさらな白紙」の書状を友人に送りました。友人夫婦は、「あなた方の悲嘆を思うと、とても言葉がありません」という芭蕉の深い心情を察し、幼子を偲びつつ滂(ぼう)沱(だ)の涙を流し、火鉢を囲む夫婦の涙で炭火のにじむ音だけが聞こえたというのです。そんな友の悲嘆に思いを馳せて、芭蕉は秘かに一句したためました。
埋火(うずみび)も 消ゆや涙の
烹(に)ゆる音
単に、「悲しみに寄り添う」などの言葉で表し尽くせない、人間の言葉を超えた「同感の心」が動いています。
同感とは「相手の身になること」と言い換えることができますが、我々は相手の身になりきることなどできません。でも「衆生病むゆえに我病む」という如来さまの真実の言葉に照らされて我が不完全さを自覚させていただく時、人間の言葉を超えた真実の世界に導かれ、「同感の心の交流する」尊さに気づかせていただきます。
安楽浄土にいたるひと
五濁悪世にかへりては
釈迦牟尼仏のごとくにて
利益衆生はきはもなし
(「浄土和讃」『註釈版聖典』五六〇頁)
このご和讃は葬儀の後、還骨勤行の際に拝読されるご和讃で、涙ながらにお念仏申すご遺族の姿は亡き人の「命がけの説法」のお働きだと味わうことができます。共どもにお念仏申す中に、お悔やみの言葉も込められているのです。
(出典 一縁会編『参らせてもらうでね!』自照社出版)
【キーワード】 愛別 悲歎 同感 無言
俳句 涙 滂沱 埋め火 芭蕉
※この一文、出典の書の中でも、芭蕉の「同感」 の切ない心情がこもった俳句が異色であった。 一茶の「露の世は 露の世ながら さりなが ら」の句を思いだす。わずかの言葉で深い人 生の味わいが伝わり、感動を呼ぶ。