HT 本当の宗教

 本当の宗教というものは、人間を単に社会の中の人間としてはとらえない。宇宙の中にある人間としてとらえる。宇宙の中に自分の位置を発見することが宗教である。もちろん人間は歴史や社会・時間や空間の中にも生きているが、それにもかかわらず、時間空間・社会や歴史を超越したものにつながっていく経験が真の宗教である。
 教団の現代化をいう時にでも、そこを忘れては不可。教団が現代社会の問題だけに対処したり、親鸞聖人の教を現代化するなどと錯覚すれば、宗教の根幹・本質を見失うことになる。
 仏教の根本は、この世をどうやって生きていくかという問題ではなく、いかにして生死を超えるか。無限の宇宙の中にあって、始めもなく
終りもなく輪廻するこの自己存在というものの絶望的な現実をどうやって救うか、生死出づべき道の探求、これが仏教の根本問題である。時間空間の中に存在しながら、その中では解決できない。いかに超越するかという問題である。
 世界宗教というのは、時間空間を超えた世界との接触として出てきた。人間は時間空間の中にいるけれども、同時に時空を超えているものに関係している。人間存在の二重性である。
 例えば、死んだ後の時間は生きた時間より遥かに長い。宇宙の物質的生成からいっても、生命のない時間の方がずっと長い。ここ(伝道院)はどこ?といっても、究極は銀河系の中になる。有限は無限を離れられない。今何時?といっても、無限の時間の流れの中の一時点にすぎない。人はみな着物(性別・年齢・教養・財産等)を着ている、着物を無視できないが、私そのものは裸である。裸(時空超越)の上に着物(時空)
を着ているようなものと言える。人間の二重性だ。

 カントは実践哲学の中で、人間存在は二つの世界の市民権もっているという。㊀は感性界(時間空間)の市民権「経験的性格」…肉体的才能や能力。㊁は超感性界(超時空)の市民権「叡智的性格」…万人平等の人格・道徳。
 ㊀は釋尊の「悉有仏性」に通じる。「思想」(超時空)にも通じる。
 日本の新興宗教は生きている間の問題…貧・病・争(死は禁句)に関わる功利的なものが多い。現代病。㊀的。
 仏教(帰命無量寿如来)は「死ななくなる教え」である。(死を直視)㊁的。
       
(出典 大峯 顕『今日の宗教の可能性』(百華苑)第二章「宇宙の中における人間の位置の発見」20~30頁 取意)
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